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将棋マンガの元祖『5五の龍』の魅力とは│今の時代こそ読みたい名作

 

最近は、藤井ブームの影響か、将棋をテーマにした娯楽作品が増えている。マンガ・アニメ・ライトノベルなど、かなりの数になるだろう。

 

将棋をテーマにした作品の歴史は古く、元祖は、つのだじろう先生の『5五の龍』(1978~1980年)だとされている。

 

今回、私はマンガ・雑誌の読み放題サービスのブック放題(初回1か月無料)で、『5五の龍』をはじめて読んでみた。12巻とコンパクトなマンガだが、じつにいろいろな気づきがあり、今の時代の将棋ファンこそ読んでおくべき名作だと感じた。

 

この記事では、そんな『5五の龍』の魅力について語っていく。

 

今すぐに『5五の龍』を無料で読みたい!という人は、以下からどうぞ。

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『5五の龍』あらすじ

 

まずは『5五の龍』のあらすじから紹介する。

 

中学生の駒形竜は、父の駒形竜馬が賭け将棋をなりわいとする「真剣師」であることを知る。

家庭をかえりみず、いつも母を泣かせてばかりの父と、父を狂わせた将棋を憎んでいた竜だったが、「俺に1局でも勝てば真剣師はやめてやる」という父の言葉を受け、父を倒すために将棋の勉強をはじめる。

最初は「父に真剣をやめさせ、母を苦労から解放する」ことが目的だったはずが、いつしか将棋の魅力・魔力に取りつかれた竜は、自らも専門棋士(プロ棋士)を志すようになるー

 

ざっとこんなところ。まじりっけなく、ただひらすらに将棋の道に邁進する若者たちの姿を描いている。

 

また、つのだじろう先生自身も将棋に造詣が深く、将棋界の内情が忠実に再現されている。1970年代後半~80年代の将棋界を伝える文献としても価値が高い。

 

時代を彩るトップ棋士が実名・実写で登場するのもポイント。まず、第1巻の中原誠十六世名人VS加藤一二三九段の対局シーンからしてド迫力。先日の竜王戦で、公式戦996勝目をあげた桐山清澄九段もバリバリのA級棋士として登場する。

 

竜の精神的な葛藤と、家族・周りの奨励会員との人間ドラマを軸としてストーリーが進んでいく。

 

なお、作中では「鬼殺し」「角頭歩」などの奇襲戦法の定跡や、駒落ちの定跡がひととおり紹介されており、級位者むけの定跡書としても活用できる。

 

今の時代だからこそ読むべき!『5五の龍』の魅力

 

今の時代の将棋ファンにこそ『5五の龍』を読んでほしい。私がそう感じるにいたった、『5五の龍』の魅力は以下4つだ。

 

  1. 「個人の能力で生きる」駒形竜の価値観が、現代人の心を打つ
  2. 高美濃弘の言葉が、将棋の世界の本質を教えてくれる
  3. 虎斑桂のハングリー精神が、女流棋士の奮闘の歴史を感じさせてくれる
  4. 登場人物みんなが、「自分が好きな将棋」を指す幸せを教えてくれる

 

それぞれの魅力についてお話ししていく。

 

魅力①:「個人の能力で生きる」駒形竜の価値観が現代人の心を打つ

 

主人公の駒形竜は、学校の成績はよくないが、中学生とは思えないほど合理的な考えの持ち主だ。それは、第1話での竜のセリフからうかがえる。

 

いい学校へ入った人は社会に出てみんないい生活してますか?そうは思えないですよ。一流大学を卒業したってせいぜいしがないサラリーマンでしょう。

『5五の龍』第1巻 駒形竜のセリフより

 

勉強→進学→就職という定番コースを歩んでも、そこそこの人生しかすごせない。竜は、中学生にして人生の本質に気づいている。

 

その根底には、個人の能力を活かした生き方こそが、人生を幸福にするという強い信念がある。このメッセージを1970年代に発信しているところが、つのだじろう先生のすごいところだ。

 

ご存じの通り、現代では「一流企業に就職すれば年功序列で一生安泰」という概念は完全に崩壊した。コロナ禍で、多くの「一流企業」がボーナスカットや社員の派遣を余儀なくなれたことは記憶に新しいだろう。

 

副業解禁などの国の取り組みもあいまって、「個人の能力で生きる」ことは、現代人の共通課題になった。時代が駒形竜に追いついたということだ。

 

駒形竜の価値観・言動を知ることは、現代を生きる上で大きなヒントになる。

 

魅力②:高美濃弘の言葉が、将棋の世界の本質を教えてくれる

 

竜の奨励会同期にして、同門の高美濃弘(たかみのひろし)。牛乳配達などのアルバイトをして生計を立てながら修行に励む苦労人だ。

 

菅井竜也八段ばりのストイックさで魅せるキャラだが、5巻での彼のセリフが印象的だ。

 

将棋の世界は勝者か敗者しかない!負けてばかりいる将棋指しが優雅に生活ができるなんてのは甘やかしだ!!・・・と その言葉は正しい!!とおれは思う。だからおれは決めたんだ!じぶんが敗者になったときはなにもやらない。(筆者注:食事をとらないという意味)

『5五の龍』第5巻 高美濃弘のセリフより

 

今は、棋士がおのれの内面や個性でファンを魅了する時代になった。YouTubeで情報発信をする棋士が急増しているのはそのあらわれだろう。私も、棋士が発信するコンテンツを楽しんでいる1人だ。

 

ただ、忘れてはいけない。将棋の本質はあくまで勝負であり、将棋の世界には勝者と敗者しかいない。

 

藤井聡太二冠があれだけの称賛を得ているのは、ただひらすらに勝っているからである。高美濃の思想はいささか偏りすぎてる印象だが、将棋の世界の本質を真正面からついている。

 

「将棋のプロの世界ってなんだか楽しそう!」くらいの印象で将棋を観ている人には、ぜひ本作で描かれる厳しい現実を知ってほしい。厳しい一面を知ることで、将棋観戦の奥深さが何倍にも増すだろう。

 

魅力③:虎斑桂のハングリー精神が、女流棋士の奮闘の歴史を感じさせてくれる

 

駒形竜の父・竜馬の因縁の相手、虎斑桂介。その娘である虎斑桂(ミス・タイガー)は、竜のライバル的存在であり、竜と桂が繰り広げる‟代理戦争”も本作の見どころの1つだ。

 

桂は、作中では「女性唯一の奨励会員」として描かれており、歯に衣着せぬ言動が魅力。その原動力は「女流棋士の地位を向上させたい」という思いだ。第4巻のセリフが強烈。

 

(女流棋士は)男性棋士のいわゆるサシミのツマあつかいよ!女は弱い・・・という理由かしれないけどこんなの封建的だね!男尊女卑よ!!あたしはそんなあつかいされるのはガマンできない!それを改革させるには女流が本当に強くなって男を対等以上に負かすことがいちばんだわ!

『5五の龍』第4巻 虎斑桂のセリフより

 

『5五の龍』の連載当時(1978~1980年)、女流棋士は人数も少なく、棋士には全く歯が立たなかった。(女流棋士が棋士に公式戦で初めて勝利したのは1993年の池田修一VS中井広恵戦)

 

それから40年あまり。女流棋士が棋士に勝つことは珍しいことではなくなった。西山朋佳女流三段が奨励会三段リーグで次点を取り、女性棋士の誕生に限りなく近づいた。

 

その40年間には、『5五の龍』の時代から、蛸島彰子先生をはじめとする女流棋士たちが孤軍奮闘してきた歴史がある。桂の想いと、昨今の女流棋士の活躍を対比させると、その奮闘の歴史に対するリスペクトが生まれるはずだ。

 

魅力④:「自分が好きな将棋」を指す幸せを教えてくれる

 

竜は、初心者のころは奇襲戦法のハメ手に頼る将棋を指していたが、次章で解説する秘技「5五龍中飛車」をあみだし、奨励会で通用する戦法にすべく研究を重ねていく。

 

他のキャラクターたちも、自分なりの信念をもって独創的な将棋を指している。彼らの対局には、自分が好きな将棋を指す幸せが凝縮されている。今の将棋界で一番失われている部分だと思う。

 

今は、素人でもAIで研究ができるようになり、プロ棋士からアマチュア高段者まで、本当に画一的な将棋を指すようになった。対局者をふせた状態で棋士の対局を見ても、誰が指してるかが分からない時代になった。

 

私も研究にはAIを使っているし、テクノロジーの進歩を否定的にとらえるつもりは全くないが、竜たちの将棋が胸を打つのはまぎれもない事実だ。

 

5五龍中飛車がタイトル戦で現れた

 

主人公・駒形竜の得意戦法であり、本作を象徴する作戦「5五龍中飛車」。下図はその進行例の1つだ。

 

55竜中飛車

 

初登場は意外に遅く、物語中盤の第6巻。(東立大将棋部の児玉戦)角道をあけず、▲96歩~▲97角と端角に構えるのが特徴の中飛車だ。

 

その後も、駒形竜は「5五龍中飛車」の研究と改良を繰り返し、奨励会の死線をくぐりぬけてきた。

 

見るからに初心者が指す奇襲戦法という印象だが、実は「5五龍中飛車」は、プロのタイトル戦でも登場したことがある。

 

それは今から約25年前、1996年の第37期王位戦七番勝負。羽生善治王位(六冠)に、若手の深浦康市五段が挑戦したシリーズだ。

 

王位戦の羽生-深浦戦といえば、2007~2008年の連戦の印象が強いが、じつは1996年にも戦っている。その第1局で、先手番をつかんだ深浦五段は、初手に▲96歩と指した。

 

タイトル戦で変わった初手を指したケースはほかにも数例あるが、この将棋は▲96歩の後がすごい。先手の深浦五段は、▲97角+中飛車の「5五龍中飛車」そのものの構えを取ったのだ。

 

正統派居飛車党の深浦五段の将棋とは思えない意表の立ち上がりに羽生王位も驚いたのか、慎重な駒組みをみせる。結果は、二転三転のすえに羽生王位が勝ったものの、深浦五段の大胆さが印象に残る1局となった。

 

対局のくわしい内容は、将棋ペンクラブログを参照してほしい。

 

また『中飛車名局集』のコラム(190P)でも『5五の龍』の話に触れられている。2021年5月22日現在はKindle Unlimitedで無料で読めるので、熱心な観る将ならば一度目を通しておきたい。

 

 

 

まとめ:今の時代だからこそ、『5五の龍』を読もう

 

今回は、将棋マンガの元祖『5五の龍』についてお話しした。『5五の龍』には、今の時代だからこそ私たちの心を打つ魅力が数多く散りばめられている。

 

  • リアルタイムで楽しんだ50代以上の人
  • お子さんが将棋を指している30~40代の人
  • 将棋が好きな20代以下の人

 

幅広い年代におすすめできる名作だ。

 

書店で見つけるのは難しいので、マンガ・雑誌の読み放題サービスのブック放題で読もう。

初回1か月無料で、無料期間中に解約すれば料金はかからない。全12巻で1日でも読めるボリュームなので、暇つぶしにぜひ。

 

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