奨励会三段リーグの「次点」って何?制度の内容や歴史を分かりやすく解説!

以前、別記事でもご紹介しましたが、将棋のプロ棋士になるためには、棋士の育成機関である「奨励会」を卒業する必要があります。

また、奨励会の最後の関門として、三段全員が集まって戦う「三段リーグ」というものがあります。

三段リーグは半年サイクルで行われ、原則として上位2名しか四段に昇段できないという狭き門です。

しかし、三段リーグには「次点による昇段」という、やや特殊なルールが存在します。

今回は、この「次点」制度について解説して参ります。

次点とは?

「次点」という言葉を聞き慣れない方も多いでしょう。

簡単に説明すると「昇級まであと一歩の惜しい成績をあげた人がもらえるボーナスポイント」です。

具体的には、毎回の三段リーグで3位に入った奨励会員に「次点」が付与されます。
この「次点」を2回獲得すると、条件付きですが四段に昇段できます

次点付与の例:第63回奨励会三段リーグ

ここで、2018年4月~9月に行われた「第63回奨励会三段リーグ戦」を見てみましょう。

下図は、最終成績上位5名を抜粋した表です。



 
扇子くん
山本三段、桝田三段、岡部三段は13勝5敗で並んでますけど・・・?
 
きゃべ夫
成績が並んだ場合は、順位(前期までの成績に基づいて決められた番付)が高い人が優先されます。
 
扇子くん
厳しい…
 
きゃべ夫
そうですね。順位を1つでも上げることで、翌期以降の戦いが有利になるため、将棋界は極めて消化試合が少ない世界になっています。

上の例では、1位の本田三段、2位の山本三段が四段昇段。
13勝5敗のうち、順位が最も高い桝田三段が次点獲得となります。

通常の四段昇段との違いは?

先ほど少し述べた通り、次点を2回獲得すると四段に昇段する権利を得ます。
ただし、通常の四段昇段と、次点2回による四段昇段は少し異なります。

通常の四段昇段

通常の四段昇段(三段リーグ2位以内)であれば、昇段後に開始される「C級2組順位戦」に参加できます。

次点2回獲得による四段昇段

順位戦を指すことができない「フリークラス」からのスタートとなります。
フリークラスは、順位戦参加者と比べ、年間の対局数も収入面も少ないです。
また、10年以内に規定の成績を上げてC級2組に昇級しないと引退となってしまうルールとなっており、プレッシャーもあります。
しかし、それでもプロ棋士としてデビューできることには変わりなく、過去に次点を2回獲得した奨励会員はほぼ全員、フリークラスでの四段昇段を選択しています。
過去、次点2回獲得により四段に昇段したのは以下の棋士です。(昇段日順)
  • 伊奈祐介七段
  • 伊藤真吾五段
  • 渡辺正和五段
  • 渡辺大夢五段
  • 佐々木大地五段
きゃべ夫
YouTubeでおなじみの伊藤真吾五段は、三段リーグで14勝4敗の成績をあげたのに次点が獲得できなかったこともある苦労人なんです(14勝4敗は昇段できるケースが多い)

次点による昇段を辞退した佐藤天彦三段

先ほど、『過去に次点を2回獲得した奨励会員はほぼ全員、フリークラスでの四段昇段を選択しています。』と書きましたが、過去に1人だけ、これを辞退した奨励会員がいました。

それは、佐藤天彦三段(現九段)です。

佐藤三段は、16歳のときに2度目の次点を獲得しましたが、四段昇段の権利を放棄して話題になりました。

この件については、『将棋世界2019年5月号』の「師弟」での中田功八段×佐藤天彦名人(当時)の対談に詳しく書かれています。

次点による昇段を辞退したことについては、プロ棋士の中でも賛否両論のようです。
その一部を抜粋します。

ありえないです。自分の弟子が次点2回取って辞退すると言ったら、破門にします。増田であっても0.1秒でプロになれと即答します。辞退することは、後々の人にプレッシャーをかけることにもなりますから(森下卓九段)

日本将棋連盟「将棋世界」2019年5月号より引用

次点を蹴ったことについては、そのほうが効率的かと思いました。当時の棋戦の数だと、順位戦に参加できるまで数年はかかる。奨励会なら最短で半年です。しかも彼は勝ち越し以上は絶対に決まっているような三段でしたから(渡辺明二冠)
日本将棋連盟「将棋世界」2019年5月号より引用
佐藤天彦三段は18歳のときに、第39回三段リーグ(2006年4月~9月)で四段昇段し、その後の活躍は皆さんご存じの通りです。
なお、この対談は、三段リーグに限らず素敵なエピソードがたくさん出てきますので、ぜひバックナンバーを買ってでも読むことをおすすめします。

次点付与に関する新規定

ここまで説明した通り、次点は「三段リーグ3位の成績をあげた奨励会員」に付与されるのが原則です。

しかし、2014年に新たなルールが1つ追加されました。

新人王戦で奨励会三段が優勝した場合、進行中の三段リーグ終了時に次点がつく」というものです。(参考:日本将棋連盟リンク

この前年、新鋭プロ棋士の頂点を決める「新人王戦」で、都成竜馬三段(当時)がプロ棋士を立て続けに破って優勝する快挙を成し遂げました。

それ以前も、奨励会三段やアマチュア選手が決勝三番勝負に進出した事例はありましたが、優勝したのは都成三段が初めてでした。

この異例の活躍を受けて、次点を1つ付与することとなったのです。

結果的に、都成三段は第58回三段リーグで1位となり四段に昇段したので、この次点が昇段に絡むことはありませんでしたが、三段リーグ3位以外で次点が付与される初めてのケースとなりました。

西山朋佳三段が竜王戦6組で優勝したら…?

2020年5月現在、関西奨励会の西山朋佳三段が竜王戦6組で準決勝まで進出しています。

あと2勝で6組優勝ですが、過去に女流棋士・奨励会員・アマチュア選手が6組で優勝したケースは無く、高い注目を集めています。

そして、「もし西山三段が竜王戦6組で優勝したら、次点が付与されるのでは?」ということが、一部で話題になっています。

5/26(火)に引退した伊藤博文七段の終局後の談話でも、『(弟子の西山三段が)竜王戦6組で優勝すれば、ひょっとするとフリークラス入り(=2回目の次点獲得)できるかもしれない』という旨の話をされています。

西山三段は既に次点を1つ持っているので、新たにもう1つ次点を付与されれば、四段昇段の権利を得ることになります。

将棋界では、女性が奨励会を卒業して四段になった例は無く、その意味でも注目度が高いのです。

竜王戦6組における西山三段は、奨励会員枠ではなく女流枠で出場している点など、考慮しなければならない論点はありますが、前向きに議論がされていると見て良いでしょう。

ただ、あまりに「特定の個人のためにつくった感」があるルールにしてしまうと、否定的に捉える方も出てくる可能性があります。

奨励会員が出場できる棋戦は、竜王戦、新人王戦だけでなく、加古川清流戦もあります。
また、8大タイトル戦の多くは、女流棋士枠が設けられています。

そうした他棋戦も含めて整合性のあるルールを作るのが望ましいのでは?と、一将棋ファンとして思います。

追記

西山三段は、竜王戦6組で惜しくもベスト4で敗退。

引き続き、三段リーグで昇段を目指しています。


補足:「次点」の趣旨

「次点」制度を取り入れている趣旨ですが、おそらくは「惜しい成績をあげながらも昇段がかなわなかった奨励会員の救済」的な意味合いだと私は考えます。
現代と形は異なりますが、1960年代の三段リーグでも、惜しくも昇段できなかった会員を救済する趣旨の制度がありました。
詳しくは「奨励会」「東西決戦」で検索すると、参考になるページが表示されるかと思います。

おわりに

今回は、奨励会三段リーグにおける「次点」の仕組みについて解説いたしました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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