こんにちは。将棋普及指導員のきゃべ夫です。
今週、第79期順位戦の組み合わせと対局日程が発表されました。
「順位戦」とは、将棋界で最も伝統と格式のあるタイトルである「名人」への挑戦に繋がっている棋戦です。
今回は、この「順位戦」の仕組みを、初めて見る方にもお分かりいただけるように、丁寧に解説いたします。
「順位戦」とは?
先ほども述べた通り、「順位戦」は、将棋界で最も歴史の古いタイトル戦である「名人戦」の挑戦権に繋がっている棋戦です。
「順位戦」は下の図のように、「A級」・「B級1組」・「B級2組」・「C級1組」・「C級2組」の5クラスに分かれており、ピラミッドのような構造になっています。
それぞれのリーグ戦は、1年を1期として戦われます。
その中で上位の成績を収めた棋士が上のクラスに上がります(これを昇級といいます)。
一方、成績が悪いと下のクラスに落ちることもあります(これを降級といいます)。
奨励会の三段リーグで1位または2位の成績を収めてプロ棋士としてデビューすると、まず一番下のC級2組からのスタートとなります。
そして、1つずつ上のクラスへの昇級を目指していきます。
どんなに実力のある棋士でも、順位戦は1年に1つずつしか昇級できないため、最高峰のリーグ戦である「A級順位戦」に昇級するまでに最速で丸4年かかります。
そして、この「A級順位戦」の優勝者が、その時の名人への挑戦権を獲得し、名人戦七番勝負に出場します。(つまり、名人への挑戦は最速でもプロデビューから丸5年かかる)
8大タイトルのうち、名人戦以外の7タイトルは、デビュー1年目の棋士にも挑戦の可能性があることと比べると、挑戦のハードルが非常に高い棋戦と言えます。
順位戦の各クラスを解説!
それでは、上で述べた5つのリーグ戦について詳しく解説いたします。
A級
順位戦の最高クラスで、定員10名の総当たり戦で戦われます。
このリーグの優勝者は、名人戦七番勝負に進出します。
また、A級順位戦では成績下位2名がB級1組に降級します。
順位戦に限らず、将棋界全体でも最高峰のリーグ戦と位置付けられており、A級順位戦に在籍することは一流棋士の証です。
通常、A級順位戦の8回戦・9回戦は一斉に行われます。
特に、名人挑戦者や降級者が決定することが多い最終9回戦は「将棋界の一番長い日」と呼ばれ、将棋界の年度末の一大イベントとなっています。
B級1組
A級順位戦に次ぐクラスで、定員13名の総当たり戦で戦われます。
成績上位2名がA級に昇級し、下位3名がB級2組に降級します。
(今年度の第79期順位戦から、降級が2名→3名に増えました)
B級1組は、A級経験者や8大タイトル保持者・経験者も多く「鬼のすみか」と呼ばれる厳しいリーグとして知られています。
B級2組
5つの順位戦で真ん中に位置するクラスです。
今期、藤井聡太七段が所属するのはこのB級2組になります。
定員は決まっていませんが、近年は25人前後が在籍しており、対局数は1人10局です。
成績上位3名がB級1組に昇級します。
(今年度の第79期順位戦から昇級が2名→3名に増えました)
一方、降級に関してはA級・B級1組と異なり、成績不振ですぐに下のクラスに落ちることはありません。
その代わり、「降級点」という仕組みがあります。
これは、各リーグで成績下位の棋士(総人数の20%前後)に「降級点」というペナルティが与えられ、それが2つ溜まるとC級1組に降級するという仕組みです。
つまり、C級1組に降級する人数は毎年違うというわけで、これがB級2組の定員が決まっていない理由です。
C級1組
B級2組の下のクラスです。
こちらも定員は無いですが、近年では35名程度が在籍しており、対局数は1人10局です。
成績上位3名がB級2組に昇級します。
(今年度の第79期順位戦から昇級が2名→3名に増えました)
降級の仕組みは、B級2組と同様に「降級点」制度が採用されています。
若手棋士同士の争いが厳しく、実力者でもここで思わぬ足踏みをすることがあります。
有名な例だと、A級通算6期在籍の屋敷伸之九段が、C級1組からの昇級に14年を要しました。
C級2組
順位戦の一番下のクラスがC級2組です。
プロ棋士としてデビューするとこのC級2組からのスタートとなります。
C級2組は50名を超える大所帯ですが、C級1組への昇級枠はわずか3名の厳しい戦いです。
他の棋戦で活躍している若手棋士でも、なかなかこのC級2組を抜け出せない人が何人もいます。
なお、このC級2組にも降級点制度が存在します。
ペナルティである「降級点」が累計3個溜まると、「フリークラス」に降級となり、順位戦を指すことができなくなります。
なお、一定の成績を収めると順位戦に復帰できる決まりがありますが、それについては別記事でご説明します。
「フリークラス」に降級しても、順位戦以外の棋戦を指すことはできますが、復帰規定を満たすことができずに10年が経過する、または満60歳を迎えて最初の年度末を過ぎると引退となります。
過去には40代で引退となった棋士もおり、勝負の厳しさを物語っています。
※プロ棋士の引退の規定はかなり複雑です。
きちんと説明すると長くなるので、別途記事にいたします。
順位戦の持ち時間と働き方改革
順位戦は、1日で指されるプロの公式戦としては最も持ち時間が長いです。(1人6時間)
朝10時に始まった対局の終局が日付を跨ぐことも珍しくはありません。
それだけ過酷な戦いなのです。(観る将的には、遅くまで観戦できて楽しいのですが…)
しかし、将棋の対局の運営には対局者だけでなく、記録係や観戦記者、日本将棋連盟の職員など多くの方が関わっています。
中には、深夜遅くまで働くことが難しい方もいらっしゃるでしょう。
昨今の「働き方改革」への意識の高まりを受けて、順位戦でも長時間の対局を見直す工夫が行われています。
詳しい説明は省略しますが、近年では、休憩時間の短縮や、B級2組以下における消費時間の計測方法の変更により、対局時間が短くなりました。
おわりに
将棋を指す人なら誰もが憧れる「名人」の座に繋がる、「順位戦」の基本的な仕組みについて解説しました。
昇級・降級に関係する細かなルールなど、今回の記事で説明しきれなかった部分については、また別の記事にてご紹介いたします。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。