私が子どもだったころ、「棋士は左利きが多い」という話をたまに耳にしました。
確かに、当時は、久保利明先生や鈴木大介先生といった、左利き×振り飛車党の棋士がA級で活躍されていました。
(もちろん今もご活躍されていますが)
また、かのニュートンやアインシュタインらの偉人も左利きだったと伝えられることからも、「棋士=インテリ=左利きが多い」という方程式が、私の頭の中にありました。
しかし、本当に棋士に左利きが多いのかを検証したことは一度もありませんでした。
そこで、今回は「棋士は左利きが多いのか?」を検証してみました。
検証方法
今回は、以下の前提で検証を行いました。
- 2021年2月24日現在、現役棋士として日本将棋連盟Webサイトに掲載されている棋士(172名)を対象に調査
- 「左利きの棋士」とは「左手で将棋を指している棋士」と定義
(箸などの日常生活では右手を使っていても、左手で将棋を指していれば左利きとカウント)
検証方法は目視。
つまり、画像や映像で将棋を指している姿を見て、利き手を確認するというものです。
何とも原始的ですが、これが一番正確に調査できる方法でしょう。
幸い、調査時点(2021/2/24)の現役棋士は全員調べることができました。
検証結果
それでは、検証結果をお伝えします。
下の表をご覧下さい。

棋士全体だと、左利きは172人中、17名で約9.9%を占めるんですね。
これって世間よりも多いんですか?

人類全体の左利き割合は約10%と言われています。
残念ながら、棋士全体では、左利きが多いとは言えないですね・・・

そんなぁ・・・せっかく「棋士=インテリ=左利きが多い」って思ってたのに夢が壊れた気分ですよ!どうしてくれるんですか!

まあまあ落ち着いて。段位別に見てみましょう。
九段の棋士に限ると、なんと24%が左利きです!

トップ棋士には左利きが多いんですね!
これはアツいです!
棋士全体ではそれほど左利きは多くないものの、八段・九段の棋士は左利きが多いという検証結果が得られました。
また、左利きの棋士には中堅~ベテラン勢が多く、若手棋士(30歳前後あたりまで)が少ないようです。
子どものころに利き手を矯正される人は年々減っており、若い世代には割と左利きがいるのでは?と考えていたので、やや意外でした。
左利きの現役棋士一覧
今回の調査で、「左手で将棋を指している」ことを確認できた棋士は以下の17名です。
九段 | 小林健二九段、南芳一九段、塚田泰明九段、久保利明九段、行方尚史九段、鈴木大介九段 |
八段 | 畠山鎮八段、畠山成幸八段、北浜健介八段、山崎隆之八段、飯島栄治八段 |
七段 | 平藤眞吾七段、戸辺誠七段 |
六段 | 金井恒太六段、村田顕弘六段、青嶋未来六段 |
五段 | 竹内雄悟五段 |
四段 | 無し |
この先生方を見ていると、独創的・芸術的な将棋を指す先生(久保利明九段、山崎隆之八段など)が多い印象です。
お二人とも、順位戦A級やタイトル戦出場を経験した強豪棋士ですが、お二人の師匠である故大内延介九段(1941~2017)も左利きなのです。
師弟で左利き、しかも全員九段。
これは今日から左手で将棋を指したくなりますね。
メモ
全棋士の画像・映像を丁寧に確認しましたが、間違ってるぞ!という箇所があればご指摘いただけると嬉しいです。
左利きで将棋を指すメリット?
棋士の先生方の話の後でおこがましいですが、私も左利きです。
アマチュアは、左手で将棋を指すことに少しだけメリットがあるように思います。
それは対局時計の位置。
対局時計は、後手番の利き手側に置くのが一般的です。
左利きVS右利きの対戦を想像しましょう。
- 自分(左利き)が先手番:相手の利き手側(相手から見て右側=自分からみて左側)に時計を置く
- 自分(左利き)が後手番:自分の利き手側(左側)に時計を置く
と、先手・後手に関係なく自分の利き手側に時計を置けるのです。
私も数多くの将棋大会に出場しましたが、これは大きなメリットです。
半面、左利き同士の対戦で先手番を引くと、非常に不慣れな「逆サイド」を強いられ、心理的にややナイーブになります笑

将棋の強い人って、意外と左利きが多いんですよね…
おまけ:テニスの世界と比べてみた!
話は変わりますが、「左利きが有利とされる世界」といえば、何を思い浮かべますか?
これはもう「テニス」でしょう。
テニスは、ボールの回転が逆になる、クロス方向にショットを放てば右利きの相手のバックサイドを突けるなど、左利きが有利な要素が多い競技です。
そこで、先ほどの検証結果をテニスの世界と比べてみました。
将棋の九段およびタイトル保持者・永世称号有資格者は合計33名。
これにあわせて、テニスの世界ランキング(最新)の上位33名の中に、左利きの選手が何名いるかを調べました。
(参考:ATPランキング)
その結果…
- ラファエル・ナダル(2位:スペイン)
- デニス・シャポバロフ(11位:カナダ)
- ウゴ・ハンバート(32位:フランス)
以上、なんとわずか3名でした。
しかも、「左利きのアスリート」としておそらく世界一有名なナダルも、日常生活は右利きです。
テニスで有利になるからという理由で、コーチを務めるおじが、幼少期に左打ちに矯正したという説もあります。
(本人はこの説を否定しており、勝つために自然と左打ちになったという見方もありますが、いずれにしても生来は右利きであることに変わりはありません)
あれだけ「左利き有利」と言われるプロテニスの世界より、トップ勢の左利きが多いのですから、やはり将棋の世界は左利きが有利なのかもしれません(笑)