以前の記事で、プロ棋士の段位の仕組みについて基本的なことを紹介しました。
詳しくはそちらをご覧いただけると幸いですが、まとめると次のようになります。
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- プロ棋士の段位は「四段」~「九段」。一度上がれば下がることは無い
- タイトル戦などの「棋戦」で好成績を上げたり、勝利数を重ねることで昇段できる
- 「段位」は棋士の今の実力ではなく、過去の活躍・実績を示すもの
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また、昇段(段位が上がること)に関するルールは、2000年代後半から大きく変わっています。
そのポイントとして以下3つをご紹介しました。
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- 昇段できる条件が増え、2005年ごろまでと比べると七段までは昇段しやすくなった(それでも大変なことには変わりはありませんが)
- 「飛び段」(四段がいきなり六段に昇段する)や、1年に2回以上の昇段も認められるようになった
- 昇段できる条件を満たした日に、すぐ昇段できるようになった
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この10年ほどで、昇段に関するルールは大きく変わっているのです。
今回は、それがよく分かる例として、屋敷伸之九段と藤井聡太七段の昇段を題材にご説明いたします。
(参考:プロ棋士の昇段規定)
藤井聡太先生の昇段履歴
まずは、藤井聡太先生の昇段履歴(七段まで)をご紹介します。
①四段→五段
2018/2/1 順位戦C級1組昇級
②五段→六段
2018/2/17 朝日杯優勝
③六段→七段
2018/5/18 竜王ランキング戦連続昇級
実に、約3ヵ月の間に3つ昇段しています。異次元です。
この1つずつを、現行の昇段規定のポイントと合わせてみてみましょう。
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①四段→五段
四段から五段には、2018年2月1日に昇段しています。
昇段の理由は「順位戦でC級1組への昇級が決定したこと」です。
この「決定」というのがポイントです。
旧制度では、昇級が決定した日では昇段せず、翌年度の4月1日付で昇級するルールでした。
また、リーグが混戦になると、3月に行われる最終戦まで昇級者が決定しないケースが多く、2月のタイミングで昇級が確定すること自体が「持っている」のです。
2月1日付で五段に昇段できたことが、後々効いてきます。
②五段→六段
五段から六段には、2018年2月17日に昇段しています。
①の五段昇段を決めた時、藤井四段(当時)は、全棋士参加棋戦である朝日杯で上位まで進出しており、優勝候補の1人でした。
そして、この朝日杯で見事優勝し「五段昇段後に全棋士参加棋戦で優勝」を満たし、六段に昇段しています。
ここでは「五段昇段後」というのがポイントです。
上の表に記載した通り、六段までの棋士は全棋士参加棋戦に優勝することで1つ昇段します。
もし①と②の順番が反対になっていたらどうなっていたでしょうか?
まず、②の朝日杯優勝により、藤井四段は五段に昇段します。
しかし、その後に①のC級1組昇級を決めても昇段はできません。
順位戦では、四段の棋士がC級1組に昇級した場合は五段に昇段しますが、元々五段の棋士がC級1組に昇級しても六段に昇段するルールにはなっていないからです。
つまり①→②の順序で昇段条件を満たさないと、こんなに早く六段までは上がれなかったわけです。
だからこそ、四段→五段の昇段が2月1日の時点で決まったことが「僥倖」だったのです。
いきなり全棋士参加棋戦の朝日杯で優勝したことも驚きですが、連続昇段のタイミングの良さにも、非常に驚いたことを覚えています。
③六段→七段
そして②の六段昇段から3ヵ月後。
藤井六段は竜王ランキング戦5組で決勝進出を果たし、「竜王ランキング戦2期連続の昇級」を満たして七段に昇段しました。
この「連続」には昇段前の優勝もカウントされます。
そのため、四段だった2017年のランキング戦6組の優勝と、2018年の昇級が「連続昇級」とされ、超スピードでの七段昇段となりました。
本人の実力が規格外なのは言うまでもないですが、藤井七段は現行の制度や運までをも味方につけた、まさに「持ってる男」なのです。
旧制度の被害者?:屋敷伸之九段
現在は、ここまでお話ししたように、少しずつ昇段しやすい制度になってきているのですが、旧制度で割を食った例として、屋敷伸之九段が挙げられます。
観る将的にはぜひ知って欲しい内容です。
少し長いですが、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。
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屋敷九段(当時五段)は、1991年1月に棋聖のタイトルを防衛し、この時点でタイトル獲得が2期になったんだ。
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ということは、防衛した日付で「タイトル2期」を満たして八段に昇段したってこと?
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今の制度ならそうなるね。でもこの当時はタイトル2期で八段の規定も、タイトル1期で七段の規定も、タイトル挑戦で六段の規定もなかったから、屋敷棋聖の段位は五段のままだったんだ。
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さすがに昇段させるべきだろうということで、1991年4月に日本将棋連盟理事会の判断で特別に六段に昇段したんだ。
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屋敷六段はC級1組順位戦からの昇級に13年かかったこともあり、1996年の3月、C級1組在籍のまま勝星昇段(六段昇段から150勝)で七段に昇段したんだ。そして、その後に棋聖を獲得しタイトル獲得が通算3期になったんだ。
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ようやくこれで九段になったんだね。
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いいや違う。
当時は飛び段が認められていなかったから、九段の昇段条件を満たしていても、八段にならない限りは九段になれなかったんだ。
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残念ながら、このときは1年に二段以上の昇段は認められていなかった・・・・
屋敷八段の九段昇段日付は「八段昇段から1年を超えて最初に訪れる4月1日」となり、2004年4月1日付で九段昇段となりました。
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屋敷九段は、仮に現行制度下であれば、11年早く八段に昇段していた計算になります。
詳しくは書きませんが、プロ棋士にとって「段位」は収入に与える影響もあり、重要なものなのです。
時代によってルールが変わるのは当然と言えば当然なので、過去の出来事に対して「もし今だったら・・・」と仮の話をするのはあまりセンスが無いですが、さすがに可哀想だなと私は感じてなりません。
おわりに
プロ棋士の段位の仕組み、昇段ルール等について一通り基本的なことを解説させていただきました。
昇段のルールを知ると、推しの棋士がどの棋戦で勝てば昇段するのかが分かるようになり、より将棋観戦が楽しくなります!
細かなルールについても一気に色々説明しましたので、ぜひ見返していただきながら、将棋観戦にお役立ていただけますと嬉しいです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。