保護者の方に知ってほしい、奨励会入会後の仕組み。昇級のルール・年齢制限

こんにちは。

日本将棋連盟公認「将棋普及指導員」きゃべ夫です。

以前の記事で、プロ棋士の養成機関である奨励会の概要や入会方法について解説しました。

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今日は、入会が決定してからの奨励会の仕組みについて基本的なことをご説明します。

最初に申し上げますと、奨励会は、全国各地から天才少年・天才少女が集まってしのぎを削る非常に過酷な世界です。

私は、自身で奨励会に在籍した経験はありませんが、教え子や、指導をいただいた奨励会員の方の話をこれまで数多く聞いてきました。

奨励会入会を検討しているお子さまの保護者の方には、奨励会がいかに過酷な場であるかについて、ご理解をいただければ幸いです。

例会に参加し昇級を争う

前の記事でお話した通り、奨励会は6級から三段で構成されており、大半は、6級(満15歳以下で受験可能)からのスタートとなります。

奨励会に入会後は、月に2回の「例会」に参加し、他の奨励会員と将棋を指します。

例会は、第1・第3日曜日に開催されることが多いですが、平日に行われる場合もあり、開催日のルールは一定ではないようです。

例会ごとに、級位者は3局、有段者は2局の将棋を指し、規定の成績を挙げると段級が上がります。(下がることもあります)

例会日の具体的な過ごし方は、元奨励会三段の石川泰氏のYoutubeチャンネルに詳しい解説動画がありましたので、参考にされると良いと思います。


昇級・昇段するために必要な成績は下図のようになっています。


級位者の昇級ルール

下段の「級位者」の規定が適用されます。

図の赤く囲った部分のように、6連勝や9勝3敗などの成績をとると1つ上の級に昇級します。

級位者は月に6局(2例会×3局)指すので、最速だと1か月で昇級できます。
伸び盛りで勢いのある会員だと、6連勝で昇級するケースも多いです。

有段者の昇段ルール

上段の「有段者」の規定が適用されます。

図の赤く囲った部分のように、8連勝や12勝4敗などの成績をとると1つ上の段に昇段します。

ちなみに、1級から初段に昇段するときもこちらの規定が適用されます。

有段者は月に4局(2例会×2局)指すので、理論上は最速2か月で昇段できるわけですが、対戦相手も強者ばかりの世界のため、8連勝で昇段するケースは少ないです。

級位者と比べると各段に昇段の条件は厳しくなっていると言えます。

級位者にせよ有段者にせよ、集中的に勝つ必要があり、1勝1敗のペースをいくら続けても段級は上がりません

例えば、6連勝で昇級できる級位者の場合、せっかく5連勝で昇級に「リーチ」をかけても、そこからずるずると3連敗してしまうと、次の規定(9勝3敗)を満たすためには、4連勝が必要になるのです。

このように、何局か続けて負けてしまうと今まで積み上げた白星が無駄になるケースが多く、精神的にかなり厳しいのです。

降級・降段もある

奨励会には昇級・昇段だけではなく、降級・降段も存在します。
簡単に説明すると下のようなルールです。

  • 2勝8敗以下の成績を取ると、ペナルティが付く(同じ級の「B」クラスに落ちる)
  • 「B」クラスのまま、もう一度2勝8敗以下の成績を取ると降級・降段
  • 「B」に落ちた後、3勝3敗以上の成績を取ると「A」に復帰できる

なお、昇級・昇段は「A」の状態でないとできません。

例えば、5級の「B」に落ちた奨励会員が、そこから6連勝しても、4級には昇級できません。

6連勝のうち最初の3連勝は、「B」を「A」に戻すための勝ち星としてカウントされ、5級から4級に昇級できるかの判定は、「A」に戻った後の4局目から始まるということです。

元の環境とのギャップ

奨励会に入会する子どもは、地元ではだいたい負け知らずです。
(東京都など、強豪が多いエリアは除く)

しかし、奨励会では周りもそのような「神童」ばかり。

周りの強さを糧に奮起できれば話は早いですが、将棋で負けると本当に精神的にしんどいものがあります。

将棋は、自分1人で勝敗の全責任を負う競技なので、ある意味チームスポーツよりも辛いです

このような環境の中、自信を喪失してそのまま退会していく奨励会員も大量にいます。

また、奨励会に入会すると、日本将棋連盟が管轄するアマ大会には出場できなくなります。

自分がたくさん勝てる環境に戻って気持ちを立て直すことも容易ではないのです。

鬼門「三段リーグ」

こうして、幾多の試練を乗り越えて三段に到達すると、関東・関西の会員が1つになって戦う、「三段リーグ」に入ることになります。

三段リーグは、半年を1期として行われ、毎期、成績上位2名が四段に昇段し、プロ棋士としてデビューします。

つまり、原則として1年に4名しかプロ棋士になれないということです。

三段というと、プロ棋士の一歩手前まで近づいているように聞こえる方がいるかもしれませんが、実際には「三段リーグ」が最も厚い壁で、「三段リーグまできてようやく半分」とも言われています。

三段リーグは、1人18局を戦います。(総当たりでは無い)

そして、13勝5敗くらいからが昇級ラインになります。

リーグの前半戦で4~5敗すると、基本的に昇級は難しくなり、また半年後に再チャレンジしなくてはならなくなります。

三段リーグまでたどり着いた奨励会員は、約6割がプロ棋士としてデビューしています。

意外に多く見えるかもしれませんが、自分の人生の全てを賭けた1局1局の戦いは、精神を限界まで、いや限界をとっくに超えて擦り減らすものです。

並の人間では正気を保つことができない世界です。

年齢制限のプレッシャー

奨励会の厳しさを象徴するものとして「年齢制限」が挙げられます。
ルールは下の2つです。

  • 満21歳までに初段に昇段できなければ退会
  • 満26歳の誕生日を迎えた三段リーグまでに四段に昇段できなければ退会(三段リーグ勝ち越しによる延長規定あり)

文字にするとたったこれだけですが、これほど冷酷で厳しいルールはありません。

また、奨励会を経験した訳でも無い私に、年齢制限の厳しさを伝えることなんて、とてもじゃないけどできません。

そこで、私がこれまでに奨励会員の方と接して感じたことを少しだけ書きます。

私は、大学生の頃にある奨励会員によく将棋を教わっていました。

その方は22歳くらいで三段リーグに昇段し、年齢制限のプレッシャーと戦いながらひたむきに四段を目指していました。

もちろん、奨励会の内情をこちらから訪ねたりはしませんでしたが、目を見て、会話をするだけでも、彼がいかに厳しい世界に身を置いているのかは伝わってくるものがありました。

アマチュアとの練習将棋でも一切の手抜きはなく、感想戦もこれまた手厳しいものでしたが、おかげ様で私はだいぶ鍛えられました。

しかし、その方は残念ながら四段には昇段できませんでした。

それ以来、連絡は取っていません。

少なくとも、こちらから何か声をかけるなんて軽はずみなことはできません。

最近でこそ、YouTuberに転身して、奨励会の経験談を話す方も出てきていますが、大変勇気がいることだと思います。

また、将棋の道を断たれ、完全に別の世界に進んだ人も大勢います。

そうした無数の若者の夢の上に、華やかなプロ棋士の世界があるのだということは、将棋ファンの方にも知っていただけると嬉しいです。

奨励会の厳しさについてもっと詳しく知りたい方はこちらの書籍がおすすめです。

いずれもノンフィクションで、奨励会の厳しさが伝わると思います。

 

 

女性棋士誕生の可能性

現行の制度で、女性で「棋士」になった人はいません。

しかし、今の三段リーグでは、西山朋佳三段が大活躍しています。

2019年10月~2020年3月に開催された「第66回三段リーグ」において、西山三段は14勝4敗の成績を収め、見事に次点を獲得しています(女性初)。

新型コロナウイルスの影響で開催が遅れてはいますが、現在実施中の第67回三段リーグでは順位1位で出場しており、有力な昇級候補と目されています。

史上初の女性棋士誕生となるか?
非常に注目が高まっているところです。

西山三段については、こちらの記事に詳しく書いておりますので、あわせてご覧下さい。

 

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