藤井八冠、アマ強豪と飛車落ち!将棋公開模範対局in甲府

こんにちは。管理人のときんです
去る2023年11月5日、甲府市で開催された将棋公開模範対局が無事終了しました。

棋譜を探してみたらたくさんの動画配信が出て来て、改めて藤井八冠の対局に対する関心の高さに驚きました。(今回は非公式の駒落ち対局とあって、珍しさもあったのかもしれませんね。)
観戦チケットの倍率は10倍だったそうですから、観戦できた方は大変な幸運でしたね!
今回は藤井先生と対局した静岡・山梨二人の県アマ名人のうちのお一人、伊藤大悟さんに貴重なお話を伺うことが出来ましたので、シェアします。
難しい内容もありますが、藤井先生ファンの方、観る将の方のみならず、駒落ちを勉強されている方には特に参考になる内容かと思いますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

伊藤大悟アマ プロフィール
伊藤大悟アマは、小学生名人戦準優勝に始まり、弱冠高校1年生でアマ竜王戦準優勝を果たしたアマ強豪。小学6年生で受験した奨励会試験ではあの藤森哲也先生とも一次試験で対局。入会は果たせませんでしたが、その後も棋力向上に努め、中学生名人戦&中学王将戦優勝、高校竜王戦優勝、オール学生優勝、アマ竜王準優勝他を果たしています。
棋譜はこちら
2023年11月5日 令和5年度 藤井聡太 名人 対 伊藤大悟 静岡県アマチュア名人 (shogi.or.jp)
藤井八冠との対局はどうでしたか?
藤井先生の第一印象
威圧感などはあまり感じず、自然体のように感じました。
(テレビを見ないのでよく分かりませんが)反応や受け答えはある程度決められているのかもしれません。
(公開対局にあたって)ご家族や同僚など周りの方の反応は?
周りの人からは、「こいつ、(藤井8冠と対局するなんて)本当に将棋が強いんだ」という反応が多かったです。
飛車落ちがどのくらいのハンデなのか聞かれることが多かったですが、私自身どう説明するのが適切なのか、未だに分かりません。
前日の様子は?
前日に顔合わせ・食事会。(結婚前の両家の顔合わせのようなイメージです。)
当日に挨拶をして対局。
道が混まないように前日朝7時前に出立して、車窓からでしたが、山中湖周辺の紅葉は見ごたえがありました。
(もっとも、出発して途中ネクタイを忘れたことに気づいて、先が思いやられました・・・)
ホテルロビーで新聞社の方々に挨拶してから別室に移動し、そこで藤井八冠と対面。
主催紙の方や山梨県連の方が色々と藤井八冠に質問し、それに答えるという感じでした。
対局者の抱負として挨拶する時間があったので、緊張している、手合い的にはあまり自信がないが盤面に集中して落ち着いて指したい、といったことを言いました。
夕食はフレンチ。食後に写真撮影がありました。

事前の読みと準備した作戦は?
『将棋大観』と『【決定版】駒落ち定跡』は飛車落ち以外を含め、一通り読みました。
右四間飛車は、竹内さんのようなよくある一般的な手順よりも、それ以外の変化を重点的に読みました。
竹内さんはうまく攻めましたが、私には同じように指せる自信がなかったので、じっくりした展開を考えていました。
具体的には、最初の数手次第ですが、引き角戦法、もしくは、右四間飛車から6筋の位を取って相振り飛車のような駒組みを予定していました。
飛車落ちは、序盤に上手が空中分解しやすいものの、そこを乗り切られると、角のにらみで牽制されて、下手勝ちにくいかもしれないです。
位を取られると圧迫感がありますし、位負けしないように指すと、角の利きを生かして嫌味をつけられやすく感じます。
※矢倉はコビンが気になり、銀冠は昨年の(渡辺明先生との)対局のように玉頭攻めが気になり、振り飛車+美濃囲いは対振り飛車右玉のような展開が気になる
そういう意味では、角落ちの方が下手は平手風に指しやすい気がします。
狙いはうまくいきましたか?
62銀※とされて、仕掛ける必要が出てきたので、あまり予定していない展開でした。
ただ、62銀には4筋から仕掛けることは『将棋大観』で一応理解しており、組み上がり自体はまずまずだと思います。
※9手目。53銀型を作りにいった一種の勝負手と思う。『将棋大観』で解説されており、82に隙がある状態で仕面けて銀や角を打つ展開を目指すことになる。仕掛けない場合、33桂を保留される可能性があり、やや下手が指しにくいと思う。
本譜はガンガン攻めなくても自然と指していけばよくなりそうなので、プレッシャーは感じにくい展開だったと思います。

途中、印象に残った手は?またその理由。
41手目の33桂。
下手が攻め間違える展開になりにくくなるので、上手の勝率を下げている気がするものの、「自分からは容易に負けない」と感じました。
対局中、印象に残ったことは?
局面を考えることに必死だったのと、前夜祭で青野先生が「相手を見ずに局面を見れば常に下手が優勢」とおっしゃっていたので、気にしないようにしました。
藤井先生の将棋はどのような将棋でしたか?渡辺先生と比べて。
(昨年対局した)渡辺明先生※は固い玉から細い攻めを繋げる技術、阿久津流急戦矢倉で平然と香を取らせる卓越した大局観など、私レベルでも何がどう強いかなんとなく分かります。
その一方で、藤井先生は「ここがすごい」というところが私レベルではよく理解できません。
昨年はどちらかというと勝敗度外視で渡辺先生の強さを味わいたいという思いが強かったです。
ただ、昨年の将棋は99飛車と回った時点でほぼ互角のようで、渡辺先生の攻めの強さもさることながら、私の大局観が悪すぎました。
※伊藤アマが渡辺明先生と対局した棋譜はこちら
そのため、今年は(自分らしさよりも)もう少し将棋として普通のことをやって、客観的な局面としてよくしようと考えました。
駒落ちの上手は個性が発揮しにくいと思われ、また、自分自身が藤井将棋を理解できていないことから、藤井先生らしさというのは、対局中正直なところあまり気づきませんでした。
藤井先生とは将棋以外に閑談されましたか?
新聞社の方への受け答えもお仕事になっていると思うので、なるべく余計なことは言わないようにしました。
(飛車落ちという手合いついて)伊藤さんはどう感じましたか?
(相手がしんどいだけだと思うので)飛車落ちの練習をお願いするのは正直難しいです。
一応少しだけ家のソフトと対局して、自分の実力ではあまり勝ち切れないと感じていました。
ただ、持ち時間の長さを考えると、下手が勝ちやすいかもしれません。
全体通しての感想など
(藤井八冠に)勝とうと思うと、正直しんどいです。
この歳になって、改めて駒落ちを勉強して非常に理解が深まりました。
実際に強くなれるかは別として、まだまだ将棋が弱いな、強くなる余地があると感じました。
また加藤幸男さんに旧Twitterで以下のコメントをいただけたのが非常にうれしかったです。
「研修会や指導対局で駒落(飛落)を指す子は必見の棋譜です。2局とも下手が強かったです。」
将棋自体は下手としては50~75手目あたりが勝負だったと思います。
中盤に厚みでリードして終盤に難しい変化を残さないのは、自分らしかったと思います。
ひょっとして、プロが緩手を指している?
ここで、もしかしたら、このように考える人がいるかもしれません。イベント会場の一角で行う多面指しであれば、ありうることだと思います。
しかしこれは棋譜の残る公開模範対局。駒落ちとはいえ、1対1の真剣勝負です。
実際のところどうなんでしょう?
過去にこの企画で当時の名人と駒落ち対局をした別の元アマ県名人のお話では・・・
(自分に関しては)それは感じなかった。
こちらも勝ちたいと思って(準備して)いくし、相手はプロ、簡単に負けられない意地があると思う。
(対局した時)自分のために、名人が作戦を用意してきてくれたのが分かって、それがすごく嬉しかった。
この方の言葉が物語っているように、大切なのは結果(勝敗)ではないので、わざと手を緩めるようなことはしていないと思います。
この企画に関して言えば、「名人としての品格を示し、大衆の模範となる対局をする」プロセスが尊重される場なのではないかと思います。
自分のためだけに作戦を考えてくれた・・・これは対局相手に対する名人として最高の表敬ですよね。盤を挟んだ者同士にしかわからない呼吸・感覚でしかありませんが、アマの対局者にとって至上の喜びではないかと思います。そして、そのような振る舞いを誰に指示されるともなく、ひけらかすこともなく自然できる、それこそが名人、そして名人自ら普及に赴く意味なのだと思います。
まとめ
今回は公開模範対局で藤井先生と飛車落ちで対局した伊藤大悟アマに貴重なお話を伺いました。対局者が対局中に感じていることや対局の雰囲気などがお伝え出来たらなら幸いです。
藤井先生、伊藤大悟さん、改めて素晴らしい対局を拝見させていただきありがとうございました。

おまけ 飛車落ち定跡解説
伊藤さんが小学生名人戦をはじめ数々のアマ大会で活躍するのを見て闘志を燃やしていたとか。
そんな鈴木肇さんが中村太一先生と一緒に飛車落ち解説をしています。
<追記>2024年の将棋公開模範対局は?
あの藤井聡太名人に静岡県、山梨県のアマチュア名人が挑戦する将棋公開模範対局。
会場は、ロビーから霊峰富士を一望できる日本平ホテル(静岡市清水区)。熱い戦いの場にふさわしい景勝地です。
今年も静岡県アマチュア名人・伊藤大悟さん、山梨県アマチュア名人・竹内広也さんが挑戦します。(伊藤さんは3回目の挑戦、竹内さんは2回目の挑戦。)
開催予定日;令和6年10月13日(日)
観覧申し込みや詳細についてはこちら。
令和六年度 将棋公開模範対局[静岡市清水区]|アットエス (at-s.com)