こんにちは、将棋普及指導員のきゃべ夫です。
最近は、将棋界の枠を超えて、藤井聡太二冠への注目度が非常に高まっていますね。
ところで、将棋のプロ棋士になる際(正確には、プロ棋士育成機関の奨励会を受験する際)には「師匠」の推薦が必要です。
藤井二冠の師匠は、杉本昌隆八段というプロ棋士です。
[sanko href=https://www.shogi.or.jp/player/pro/197.html title=棋士紹介(杉本昌隆八段) site=日本将棋連盟]
最近では、藤井二冠の師匠としてテレビのワイドショーに出演したり、藤井二冠に関する書籍を出版するなど、将棋の対局以外でもご活躍をされています。
藤井先生の才能を幼いころから見抜き、大切に育ててきた優しい師匠として広く知られるようになっていますね。
しかし、実は杉本八段ご自身も、これまで多くの棋戦で活躍してきた強豪棋士なんです。
今日は、そんな杉本八段の棋歴の中から、観る将歴20年の私が選んだ、「杉本八段の活躍ベスト3」をご紹介したいと思います。
なお、藤井二冠の師匠としての杉本八段のことをもっと知りたい!という方には、こちらの書籍がオススメです。
一棋士であり、天才棋士の師匠でもある杉本八段の内面を知ることができる素晴らしい1冊でした。
1. 朝日選手権五番勝負に登場(2002年)
杉本八段は、六段だった2002年に「朝日オープン将棋選手権」の決勝五番勝負に登場しています。
今からもう20年近く前の話になりますが、当時子どもだった私の記憶にとても強く残っています。
少し説明をすると、「朝日オープン将棋選手権」は現在の「朝日杯将棋オープン戦」の前身にあたり、わずか6年間だけ行われた過渡期の棋戦です。
1次予選のアマチュア選手出場枠が10名と非常に多かったことや、高額な賞金(2,000万円)、「挑戦手合制(タイトル保持者に挑戦者が番勝負で挑む)」の導入など、タイトル戦に準じるような位置づけで、非常に画期的な棋戦でした。
この「朝日オープン将棋選手権」が開始された期に、杉本八段は大活躍。
森内俊之八段や中原誠永世十段(肩書はいずれも当時)を破り、決勝五番勝負に進出します。
「朝日オープン将棋選手権」としては1回目の開催であったため、トーナメントの決勝進出者同士で五番勝負を行い、その勝者が「朝日選手権者」を名乗ることに。
決勝の対戦相手は、飛ぶ鳥を落とす勢いで羽生世代の強豪棋士を撃破した堀口一史座五段。
若手同士の注目の五番勝負となりましたが、結果は1勝3敗で惜しくも敗北。
4局とも、両者の気迫がこもった熱戦でした。
ちなみに、この五番勝負の開幕第1局の初手に、杉本六段は▲1六歩と指しています。
将棋の初手は大半が▲7六歩か▲2六歩です。
いきなり端の歩を突く▲1六歩は、パフォーマンス的な意味合いが強い手です。
今の時代であれば、中継画面が「おおおおおおおお」みたいなコメントで溢れていたことでしょう。
2020/12/13追記
NHK杯戦の対豊島将之竜王戦で、初手▲1六歩から杉本先生が見事に勝利を収めました!
当時、弟子の藤井聡太先生がまだ一度も勝てていなかった豊島竜王に師匠が勝利。
なんともドラマチックな1局でしたね。
2. A級目前まで迫る(2009年)
プロ棋士ならば誰もが憧れる「名人」の座につながる「順位戦」。
杉本八段は、最高峰のA級順位戦に次ぐ「B級1組」に在籍していた経験があります。
そして、そのB級1組で最高3位にまで昇り詰めました。
B級1組は上位2人がA級に昇級する仕組みであるため、本当にあと一歩のところまで迫っていたのです。
こちらがそのときのリーグ表です。(最終成績上位5名のみ抜粋)
当時、杉本八段は七段でした。
B級1組順位戦は、通常は13人の総当たりで行われます。
つまり、1人が12局指すわけです。
この「第67期B級1組順位戦」の全12回戦が終了し、高橋道雄九段・井上慶太八段・杉本七段の3名が8勝4敗の成績で並びました。
しかし、B級1組からA級には2人しか昇級できません。
こうした場合、順位戦ではどのように昇級者を決めると思いますか?
この3人の中で勝負をして決めると思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。
順位戦では、同成績で並んだ場合「順位」が高い棋士が昇級する決まりとなっています。
「順位」とは、前期までの成績に基づいて決められた、そのリーグの中での番付を意味します。
8勝4敗で並んだ3人の順位に注目すると、高橋九段が3位、井上八段が9位、杉本七段が11位(前年の順位戦の成績が奮わなかったため)です。
よって、順位が上位の高橋九段、井上八段がA級昇級の切符を手に入れたのです。
惜しくも昇級を逃した杉本七段でしたが、この期は渡辺明竜王や屋敷伸之九段などのトップ棋士に勝ち、大活躍のシーズンでした。
また、この第67期B級1組順位戦は、全体的に混戦だったことや、昇級が本命視されていた渡辺明竜王・久保利明八段が揃って昇級に届かなったこと、長らくA級に返り咲けずにいたベテランの高橋九段・井上八段が昇級したことなど、非常に印象深いリーグでした。
3. 50歳でB級2組返り咲き!(2019年)
これは記憶に新しい方も多いと思います。
その2でご紹介した、A級目前までの活躍から10年後。
杉本八段は、弟子の藤井聡太七段(当時)とともに、C級1組順位戦を戦っていました。
リーグ終盤、ともに昇級を争っており、「もしかして師弟揃っての昇級になるのでは?」と非常に高い注目を集めました。
そして、最終11回戦までが終わった結果が、下図です。
なんと、9勝1敗で4人が並びました。
藤井七段は、この前の年にC級2組から昇級してきたばかりで順位が低かったため、残念ながら2期連続の昇級とはなりませんでした。
一方、杉本八段は「順位の差」でB級2組への復帰を決めました。
50歳で順位戦を昇級することは大変な偉業です。
また、愛弟子に昇級してほしいという師匠としての思いを抑え、一棋士として勝負に徹して勝利を掴んだ姿も見事です。
この翌年、藤井七段も見事B級2組に昇級し、今期は師弟が再び同じリーグに在籍し、昇級を目指すこととなります。
ただし、順位戦では、B級2組以下は師匠と弟子は対局しないルールとなっているため、順位戦での杉本VS藤井戦は今年は実現しません。
おわりに
今回は、藤井聡太二冠の師匠、杉本昌隆八段のこれまでの活躍を紹介しました。
杉本八段は、弟子を見守る素敵な師匠であると同時に、棋士としても華やかな活躍をされているということが、将棋ファンの方々に伝われば幸いです。