日本将棋連盟公認「将棋普及指導員」のきゃべ夫です。
以前の記事で、プロの公式戦の中でも特に格式の高い「8大タイトル戦」についてご紹介しました。
今回は、8大タイトル戦の1つである王将戦について解説します。
王将戦の基本データ
まずは、王将戦の基本的なデータから見ていきましょう。
特徴1:難関「王将リーグ」
王将戦は、一次予選・二次予選を勝ち抜いた棋士(3名)と、前期の残留者(4名)の計7名で総当たりの「挑戦者決定リーグ」を行い、挑戦者を決定します。
「挑戦者決定リーグ」は通称「王将リーグ」と呼ばれ、将棋界でも屈指の難関リーグです。
リーグ入りする棋士は、順位戦A級在籍者やタイトル保持者が多く、王将リーグで戦うことはトップ棋士の証の1つでもあります。
また、二か月弱という短い期間に6局の対局をこなす必要があり、体力的にもタフなリーグ戦です。
2019年度の第69期王将戦は、藤井聡太七段(当時)が、勝てば初タイトル挑戦となったリーグ最終局で、広瀬章人八段に惜しくも逆転負けを喫したことが話題になりましたね。
2020年度の第70期王将戦では、藤井聡太二冠(当時)がまさかのリーグ陥落。
王将リーグがいかにハイレベルかを象徴するかのような出来事でした。
特徴2:観る将必見!棋士の珍写真の宝庫
王将戦では、対局が終了するごとに勝者が記念撮影を行うのが定番になっています。
勝ったのに「罰ゲーム」を受けるところが面白いですね。
追加きてるううううう!
王将戦第2局から一夜 広瀬八段、タイ勝に「ホッと」湯っくり― スポニチ Sponichi Annex 芸能 https://t.co/xP3NSZJ9lv
— あざらし (@ykmask) January 27, 2020
なぜにトライ?ww
王将戦第1局 渡辺王将が貫禄先勝!さすが“冬将軍”広瀬八段の猛攻一蹴― スポニチ Sponichi Annex 芸能 https://t.co/Eo7o04yfth
— 将棋情報局編集部 (@mynavi_shogi) January 13, 2020
やっぱり王将戦のコスプレが好きだな。#shogi pic.twitter.com/SOhaUwplAb
— keiko (@quatrze) July 14, 2017
対局を行った地域の名物にちなんだ格好をしたり、温泉でのセクシーショットなどが定番です。
スポーツ新聞大手のスポニチ社が主催しているからこその面白い工夫が毎回仕込まれており、王将戦観戦の醍醐味の1つになっています。
特徴3:実は今も残っている「指し込み」制度
王将戦には、他のタイトル戦には無い「指し込み」という制度がありました。
(というより、今も「指し込み」制度そのものは残っています)
結論から述べると、現在では、他の七番勝負と同じく「先に四勝した棋士がタイトル獲得、七番勝負もそこで終了」なので、あまり気にする必要はありません。
しかし、観る将的には知っておくと面白い歴史なので、詳しく説明します。
特に興味が無い方は読み飛ばしていただいて構いません。
指し込み制度は、「手合い」と「対局数」の2つのルールからなります。
手合い
王将戦がタイトル戦となった1951年度からは「三番手直り」という制度が採用されていました。
これは、どちらかが三勝差をつけた時点で七番勝負の勝敗は決したものとし、その後は半香で指すというルールです。
半香とは、「香落ちと平手を交互に指す」という手合いです。
なお、1965年度からは四番手直り(四勝差を付けると、その後は半香の手合いになる)に改められました。
対局数
現在では、全てのタイトル戦は「番勝負の勝者が決定した時点で終了」ですが、初期の王将戦はそうではありませんでした。
1951年度~1958年度までは、番勝負の勝敗がついていても必ず第七局まで指すというすごいルールだったのです。
つまり、片方が三連勝した場合、七番勝負の勝敗はそこで決定(三番手直りのルールに従う)するものの、その後も、香落ち→平手→香落ち→平手の順に第七局まで指すということです。
プロ棋士の公式戦で駒落ちが行われるということです。
現代では考えられないことですね。
実際、第1期王将戦(1951年度)の七番勝負は、名人の保持者でもあった木村義雄王将を、升田幸三八段が四勝一敗と圧倒。
三勝差がついたため「指し込み」制度が発動しました。
これにより、第六局は升田八段が木村王将(名人・九段)に香を落とす、つまり名人が香落ちの下手を指すという前代未聞の事態が起こることとなりました。
ところが、この第六局で升田八段は対局を拒否し、香落ち戦は実現しませんでした。
これが有名な陣屋事件です。
しかし、1955年度の第5期王将戦では、大山康晴王将(名人)に升田幸三八段が三連勝。
今度は指し込みの第四局も指され、上手の升田八段が勝利。
名人が香を落とされて負けるという事態が現実のものになったのです。
特に、下手(駒を落とされる側)が負けてしまうと、その棋士の権威にも傷がついてしまいます。
そのため、対局数のルールは徐々に改正されていきました。
1959年度からは、「指し込みが発動したら香落ちを1局だけ指す」というルールになり、1965年度からは「四勝差がついた時点で七番勝負は終了する」という、現代と同じ形式になりました。
また、同時に手合いも「四番手直り」になったため、今では香落ち戦が指されることはありません。(四番手直りが発動するのは片方が四連勝したときだけだが、その時点で七番勝負が終了するため)
王将戦のちょっとマニアなデータ
それでは、観る将向けの少しマニアなデータを見ていきましょう。
最多獲得・最多連覇
いずれも大山康晴十五世名人です。
先の対升田八段のシリーズでは、香落ちの下手で負けるという屈辱を味わいましたが、その後の黄金時代は説明するまでも無いでしょう。
同一タイトル通算20期は、羽生善治九段以外は誰も到達していない大偉業です。
最年少・最年長
最年少は中村修九段の23歳。六段での挑戦で中原誠王将からのタイトル獲得でした。
最年長はまたもや大山康晴十五世名人。
58歳11か月でのタイトル獲得は、8大タイトル全ての中で最年長の獲得記録です。
七番勝負の最多勝利・最多連勝
最多勝利は大山康晴十五世名人の84勝。(指し込みで指された6勝は含まない)
七番勝負の出場回数も26回と群を抜いています。
最多連勝は、谷川浩司九段と羽生善治九段の10連勝。
おわりに
王将戦は、記事内でも解説した「勝者の記念撮影」など、エンタメ性が高く、観ていて面白い棋戦です。
また、藤井聡太棋聖が前期リーグに残留したことで、王将挑戦の可能性も高まっています。
今後の動向も目が離せないですね。
8大タイトル戦については、棋戦ごとに記事を書いておりますので他の記事もぜひ読んでいただけると嬉しいです。